新選組 幕末の青嵐

木内昇。アスコム。
多摩から箱館までの土方さんを描いた話です。ですが手法が少し変わっていて、各章一人の視点から書いた掌編をたくさん繋いで長編にしている感じです。その場面では主役になっている人物の感情が書けると云うことで、成功していると思いますが、一つの長い話だと思うと少し話ごとの視点の違いが気になる(主役が一人だと一貫しているはずの主張が乱れるので)ところもあります。でも土方さんや総司や近藤さんだけではなく、佐藤彦五郎や井上源三郎等普段は主役にならない人達の感情が描いてあるのは面白いなと思いました。最終章は日野に辿り着いた市村の回想になっています。
小説の手法は興味深いんですが、内容は私は今一つかなと思いました。特に思ったのが土方さんの描かれ方なんですが、性格はそう破綻のない人物なんですけどどうも試衛館のメンバーとあまり深い繋がりがないんですよね。近藤さんと総司のことはそれでも少しは好きなのかな、と思える描写はありますが、その他の人達とは碌に話したこともないと云う感じなので。それでは京に行ってのち誰も土方さんの云うこと利かないんじゃないかなと私は思うんですけど・・・。わりとクールな人物に描かれています。一章ごとに主人公が変わるせいもありますが、それぞれの人物像についての掘り下げが足りないのかもしれません。
総司の為人はいかにも天才剣士と云った感じで(感性で喋るので何を云っているのかがわかりにくい人なんですが)かなり好きですね。あと斎藤も一匹狼なんですが、土方さんには一目置いている感じで読んでいて嬉しかったです。でもその思いは土方さんには通じていなかったようでちょっと斎藤可哀想(^^;)。会津の別れの場面も「それが理由なの?」と云う変わった斎藤さんが読めます。永倉さんの性格がちょっと今までに読んだことのない解釈で普通の真面目な人として書かれていました。武田と伊東さんの書かれ方はいくら何でもちょっと気の毒な感じでしたね。